明治に創業した緑屋老舗は、現在六代目が後を継いでいます。今では緑屋老舗の代名詞ともなっている栗金飩は、大正時代に“三代目翠翁”白木鍵次郎が作り始めたもので、美濃地方ではいちばん最初に作り出したと伝わっています。当時の大仙寺のご住職がたびたび京都に出掛けられており、ご住職の助言があって栗金飩が誕生したのです。
その時の思いを、祖父から父へ、父から息子へとつなぎ、現在も昔のままの材料と作り方で、一つひとつを丁寧に手づくりしています。
秋になると、木曽川に面した八百津の街は金色に輝きはじめます。特産品である栗があちこちで実をつけるからです。緑屋老舗では50軒以上の地元の契約農家さんから毎日届く栗を使用して栗金飩を作っています。
その農家さんのひとつが約70アール(およそサッカー場くらい)の広大な敷地に栗園を持つ可児市の栗里園。
園内には丹沢・筑波・伊吹・銀寄席・利平など多種類の栗の木が並び、9月から10月中旬にかけて順に収穫期を迎えます。
栗の善し悪しを左右するのは「土」ですが、この農園は栗を育てるのにピッタリな粘土質の土壌に恵まれ、片手におさまりきらない大きさの良質な栗がたくさん採れます。
朝拾われた栗はすぐに緑屋老舗に届けられ、新鮮なうちに蒸し上げられます。
栗の季節の9月10月は一日に8千個ほど作るため、朝4時から一度に30kgの栗を蒸しはじめ、それを加工して炊いて絞っている間に、次を蒸し上げるというサイクルを9回転ほど行います。甘さがひかえめで、栗の粒が残るホクホクした食感にこだわっているため、短時間で炊き上げています。長時間炊き込めば日持ちはするのですが、ねっとりした甘さが出てしまい、当店の味ではなくなってしまうのです。この作り方は今も昔も変わらぬままの製法です。
鮮度と共にこだわっているのは、水。
八百津には昔ながらの酒や酢、醤油の蔵元が多いのですが、それはここが“水のまち”だから。当店では、栗きんとんも和菓子の餡も、100mボーリングして汲み上げた地下水を使用しています。八百津の栗と水だからこそ作れる味をこれからも追求していきます。
おかげさまで、北海道から沖縄まで全国からご注文をいただき、神戸や東京からお買い求めに来られるお客様もいらっしゃいます。時に販売店舗を増やす話も舞い込みますが、緑屋老舗はあえてその挑戦を選びません。納得のゆく材料で手間と時間をかけて手づくりするのは、家族でまかなっていくサイズ感がちょうど良いと判断しているからです。効率よりも美味しさを重視した父子相伝の味わいを守っていきたいのです。
「栗金飩」と漢字で表記する理由は、まさにこのこだわりにあります。緑屋老舗だけに伝わるレシピで唯一無二の栗金飩を作る、その思いを、漢字にこめているのです。こうして受け継がれた伝統の栗菓子を、ぜひ召し上がっていただきたいと思います。